2.4章 性格を直した、トゥアーリ
この物語は、ある小さな村にある、ダンケ学校での、教師ケイと、生徒10人によるやり取りを記録したものである。
登場人物紹介
ケイ・・・ダンケ学校の教師。さまざまな経験から子どもたちに平等に、多種多様な事柄を教える。
ミド・・・ダンケ学校の生徒。賢く機転が効く。人のパーソナルスペースに土足で踏み込まない。
シバ・・・クラスの清掃委員。きれい好き。少し自分の意見を押し付けがち。
スイスイ・・・自分より他人を思いやる優しい子。最近、少し自分の意見を言えるようになった。
ガイマ・・・全てを他責にする。だが悪いやつではない。
忘れん坊のトゥアーリ
トゥアーリは、いわゆるムードメーカーで、彼がクラスにいるだけで、場が和んだ。ケイが少しイライラしている時など、気の利いたジョークを言って、場を沸かせ、そんなトゥアーリを見ていると、ケイも気持ちが落ち着き、実は助かっている部分も多くあった。
そんなムードメーカーのトゥアーリだったが、彼には弱点があった。それはちょっとだらしのないところがあることだ。
まず忘れ物が非常に多い。宿題はほぼ間違いなく忘れるし、何日までに持ってきてと言われたものも、ほぼ確実に忘れる。
忘れないようにメモを取っておくよう、ケイから言われるのだが、メモを取ることを忘れてしまう。話は聞いているようだが、耳に入った瞬間、脳を通らず、そのままもう片方の耳から出てしまっているような印象だ。
とにかく覚えてそれを実行することが苦手であった。
そんなトゥアーリだったが、前述の持ち前の性格の明るさからそんなことは全然気にしていなかった。あることが起きるまでは。
ハレは、マメな男子が好き
クラスにはハレという女の子がいた。彼女は少しトゲトゲしていてそっけない子であったが、そんなクールなところに好感を持つ男子も複数いた。
その一人がトゥアーリであった。何を隠そう、トゥアーリはハレに恋をしていたのだ。
そんなトゥアーリに驚くべき話がもたらされた。クラスのミドから教えてもらったのだが、なんとハレの好きなタイプは、マメな男らしい。
それを聞いて楽観的なトゥアーリも肝を冷やした。確実に自分はマメなタイプではない。このままでは他のクラスの男子どもにハレを取られてしまう。
どうすべきか悩んでいたところ、親友のガイマに話してみることにした。
やれるかどうかではなく、やる
「それはもう、お前が変わるしかないだろ」
そう言い放ったのはガイマである。このままだとマメな男子(例えばミドなど)に、ハレを取られてしまう。どうしたものかとトゥアーリがガイマに相談したところ、上記のような回答があった。
「やっぱりそうだよなぁ。俺が変わらなきゃまずいよなあ。でもマメな男になんて、なれるかなぁ」
トゥアーリは不安気である。いつもの楽観的な調子はどこに行ったのやら、今日のトゥアーリは自信がなさそうに、不安にしていた。
そんな不安そうなトゥアーリに、ガイマは言い放った。
「やれるかどうかじゃない、やるんだよ」
う・・・とトゥアーリは何も言葉が出てこなかった。
やれるかどうかじゃなく、やる。それはとても根性というか、気合いが必要そうなことに聞こえた。
ガイマは続けた。
「まあ、別に僕にとってはどうでもいいことだけど、僕は自分で言うのも何だけど、自己中だからね。そんな好きな女子を他の男子に取られるのを、黙って指をくわえて見ているなんてできないね。
トゥアーリは、ハレがマメな男が好きって情報を掴んだんでしょ。だったら、なんで動かないの。やればいいじゃない」
その言葉でトゥアーリは、心が決まった。やれるかどうかじゃなく、やるんだ。そう考えて腹が座ると、何でも自分ができるような気持ちになって、メラメラと心が燃えるのがわかった。
自分ならできる、そう思えてきた。
そこからのトゥアーリは人が変わったようだった。忘れ物は一切しないようになった。宿題もやってくるようになった。
ハレがそんなトゥアーリを見てどういう感情を持ったかわからない。
トゥアーリがマメな男になるよう、頑張るようになってから数日後、ガイマは教師ケイと話していた。
「これでいいのかい、先生?」
「ああ、ありがとう。かなりトゥアーリも自分に自信を持って、やる気を持って励んでいるようだ」
実は、忘れ物が多いトゥアーリを見かねていたケイは、偶然、ハレがマメな男子が好きと言う情報をキャッチした。
それを同じくらいに知ったトゥアーリが、非常に焦っているという話を聞いた。
それを知ったケイは、ガイマに、少しトゥアーリを焚き付けるように仕向けたのだった。
「あんなに頑張っちゃって。無理しなきゃいいいけどね」
ガイマは少し心配しているようだった。
確かにケイから見ても、トゥアーリは少し頑張りすぎているようだった。少しフォローを入れてあげた方がいいかもしれない。
しかしケイはこの体験を通じて、トゥアーリに、やればできる、逆に、やればできると思えばできる、ということを知ってもらいたかったのだ。
しかもそれを見ている他の生徒たちにも自分の気持ち次第でかなりのことが実現できるという自信をつけてもらいたかったのだ。
しかしガイマが言うよう、性格を変えるのは非常に大きなエネルギーを消費する。燃え尽きないようにそこはフォローを入れなければならない。
ただやはりケイの中では、自信を持ってやり遂げることを教えたくて、今回の一件に手を入れたつもりだった。これがどうなるかも含め、見守っていくつもりであった。
以上

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