(131) 水車

あるところに水車があった。

水車は物心つく前から、流れに沿って設置されており、
車をぐるぐる、ゴロゴロと回すことをしていた。

これをすると水車の横にある小屋の中で台車も回り、それで動力が得られ、臼を引いたり、色々な人間の役に立つことができた。

人間はそれで生活ができていて喜んでいる様子だった。

逆に水車が故障して動かなくなると、非常に不満な顔をし、一刻も早い復旧を願った。

いつしか水車は、壊れてはいけない、もっと人間のために頑張らなければならないと考えるようになった。

そして長い間水車は回っているうちに、いつまでぼくはこんなことをし続けるんだろうと考えるようになった。

確かに人間の役に立てることには充実感もあるし、とても大事な仕事をしているんだという実感もある。

しかしぼくもいつかは回らなくなる。そうしたらぼくはどうなるんだろう。取り壊されてしまうのだろうか。そんなことを考え始めると、夜も眠れないのだった。

そしてまた、水車はこうも思った。果たしてぼくはこの水車を回すという仕事が好きなんだろうかと。確かに水車として今、役割を果たすことはできている。しかしいつまでもこのままでいいのだろうか。

悩めば悩むほど、答えは出ないのだった。

明くる日、ある村人が水車の前にきて、こう言った。

「もっと早く回すことはできないのか。そうしたら小屋の中で、もっと作業が捗る。もっと頑張ってくれ」

そう言われ、大変だなと思いながら、もっと頑張り、水車を回すスピードを早くした。

そうするとその村人はもっと早く、もっと早くと過度な要求をするようになった。

水車は疲れ果てて、しばらく動けなくなってしまった。

またある時は水車が休んでいる時に村人が現れ、今すぐ水車を回すのを再開して欲しいという話であった。

どうやら緊急の用事ができたようで、すぐ水車の動力が必要とのことだった。緊急ということであればと、水車は回してあげたが、後々聞くと、それほど急な用事でもなかったようだ。

水車は緊急の用事と言われても、あまり対応をしなくなった。

こんな生活をしているうちに、もう本当に水車を回すことが嫌になってきてしまった。

そんなとき、風がこう言った。

「どうしたんだい、水車くん。顔色がすぐれないようだけど」

「はい、、、なんだか水車を回すのが嫌になってしまって、、、。大事なことだとは思うんですけど、みんな結構無茶言ってくるし、休めないし、、、なんだか疲れてしまって」

そういうと風はふふっと笑ってから言った。

「君は真面目すぎなんだよ。要はみんなのために頑張りすぎなのさ。もっと気楽でいいんだよ。
 相手の言いなりにならなくていいし、
 自分の意見をもっと言ってもいいし、
 相手から嫌われたってもいいのさ。

 僕なんて、見ての通り、気ままなものさ。たまにイライラして暴風雨になってしまうけど、それも仕方ないこと。イライラしたのだからしょうがないのさ。でも流石にやりすぎたなって思った時は、すごい心地のいい風を吹かしてあげたりしてね。風を起こせるのは僕しかいないんだ。だから何をするにも僕の思うがままさ」

それを聞いた水車は、ちょっと勝手すぎる考え方だなと思った。しかしそれは口に出さないでおいた。

「風さん、ぼくは君がうらやましいよ。そんなに楽に簡単に生きられたらどんなに楽か。でもぼくはそんなふうにはできないよ。どうしても他人のことを気にしてしまう。他人がいるからぼくがいられるのであって、そんな他の人をむげにはできないよ。条件反射で体がストップしてしまうんだ」

「水車くん、それは君の思い込みなんじゃないかな。もっと気楽に生きたっていいはずだよ。それにそんなストレスを抱えたままじゃ、君の体が持たないんじゃないかい。」

「それはそうだけど、、、」

水車は返す言葉がなくなってしまった。そしてその日はとりあえず家に帰った。

そして夜寝る前に考えてみた。

確かに風さんのいうように、ぼくは少し他人を意識しすぎなのかもしれない。でもそうは性格は変わるものでもないし、別にそんな自分のことが嫌いじゃない。むしろ好きだ。いろんな人のわがままに耐えつつ、みんなの幸せのために精一杯頑張ろうとしているぼくが好きだ。

そう思うと、水車は少し元気とやる気が出てきて、また明日も頑張るかという気力が湧いてきた。

こういうふうに、水車はまたゴロゴロ、ガタガタと、今日も水車を回すのだった。

以上

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