4.4章 頑張りのご褒美

国王の元お墨付き大臣のダーヨ。今は占い師として活動している。

ダーヨに憧れ、師事する優しい中年男性チョンサ。

チョンサはひょんなことから猫の言葉がわかるようになり、三毛猫のムネマとは友人関係にある。

今日もダーヨの元に占いと言いつつ、人生相談をしにきた人がいるようだ。

疲れているチョンサ

今日のダーヨへの相談については、チョンサは出席しないことにした。

面談時間は一時間ということで、その間休憩をもらって、近くの川で腰を下ろしていた。

事務所から出る時に、猫のムネマもついてきた。一人と一匹はお互い何も言わず川まで歩き、腰を下ろした。

空は曇っている。空気も湿っているし、この後少し雨が降るかもしれない。

チョンサは手頃な小石を握り、川に投げたが、一回も飛び跳ねなかった。

「どうした、なんかお前、疲れてねえか?」

少し不安に思ったのか、猫のムネマはチョンサを気遣った。

なんだかんだ二人は長い時間を共にするようになってきて、なんとなく相手の調子が良くない時は、それに気づくくらい親密になっていた。

今日のチョンサは元気がない。いつもだったら積極的に面談に同席するのに、その時間を休憩に当てている。

それにムネマは気づいていた。チョンサは精神的に疲れると自然に触れたくなる傾向があると。

この川は特にチョンサのお気に入りで、疲れた時はしばしばここに通っていることを、ムネマは知っていた。

なんとなく沈んだオーラを纏ったチョンサは、また手頃な石を探し、そこらをかがんでいた。

「正直、なんだか疲れちゃったんですよね」

チョンサは二つ目の石を探し当て、川に投げた。

「ぼくはぼくなりに頑張っています。たまに成果は出るけど、なんだか疲れてしまって。休息の取り方がうまくないのかなと思うんです」

確かにムネマはそれを感じていた。

チョンサは真面目すぎる。仕事にも家庭にも一直線だ。そして何かうまくいかないことがあると、自分に責任があるとして、自分を責める傾向がある。

「お前さんは真面目すぎるんだよ。Take it easy。もっと気楽にやんなよ。これだから真面目な人間は苦手だぜ」

そう言って、ムネマは回れ右をして街に戻って行った。

チョンサはしばらく石を探しては川に投げていたが、うまく石が跳ねず、しばらくそうしてから断念して事務所に戻って行った。ちょうど一時間が過ぎようとしていた。

リラックスする時間

しかし事務所に戻ったはいいが、ダーヨの姿はなかった。その代わりに相談者さんがまだいた。

「あれ、ダーヨさんはどうしたんでしょう」

今回の相談者はチョンサと同じくらいの年代の四十代の男性。小太りというところも、チョンサそっくりだ。

「ええ、私との面談が終わった後、足早に出かけて行きましたよ。何やら用があるとのことで。私はしばらく言われたことを考えて、そろそろおいとましようとしていたところです」

相談者は荷物をまとめ事務所のドアに向かった。

そこまで付き添った際、チョンサはその男性に聞いてみた。

「いかがでしたでしょうか。今日の相談・・・いや占いは?」

男性は少し笑みを浮かべた。

「ダーヨさんにはとても親身になって相談・・・いえいえ占いでしたね。占いをしていただきました。とても身になる話でしたよ」

途端にチョンサはこの男性がうらやましくなった。この人は悩みを一つ解決し、前に進もうとしている。

それに比べ自分は何か成長ができているのか。成長ができたこの男性を、とても羨ましく思った。

「ちなみに今日はどんなご相談内容だったのでしょうか」

自分がその面談に参加していれば聞かなくてよかった質問だが、ついチョンサは気になって聞いてしまった。

「今日の悩みは、私が自分を責めてしまうことです。小さなことから大きなことまで、すぐ自分のせいと、自分を責めてしまうんです。それをどうにかしたくて、ダーヨさんの占いに来たというわけです」

「どのようなアドバイスを受けたんですか」

チョンサは自分もぜひ知りたいという気持ちが強くなってしまい、続いて聞いた。

「ダーヨさんからは別に自分を責めるのは悪くないと言ってくれました。それよりもっとリラックスする時間を取った方がいいと言われました」

「リラックスの時間ですか」

二人はもう玄関まで来ていたが、しばらく立ったまま話を続けた。

「ええ。だいたい私の平日の予定が朝に家のこと、いわゆる子どもの世話や洗濯などの家事を妻と分担して行い、その後仕事に行っています。
 そうして夕方になって帰ってきてまた子どもの世話をして家事をして、すぐに就寝という形を取っています。それを平日は五日あるので五回連続で行うんですね。
 そして休みが二日あるのですが、ほぼ育児と家事が終わって、また平日が始まるとこんな感じなんです。人に話して分かったんですが、自分の休憩時間がほぼないんですね」

実はチョンサの生活もほぼこの男性と同じであった。妻と育児と家事を分担しながら仕事をして、休日も家族と過ごす。家族と過ごせるのは本当にありがたく幸せなのだが、この生活リズムだと一分も自分の自由時間がなく、”疲れた”という感情がどうしても拭いきれなかったのだ。

「ですので、なるべく何もせずゆっくりリラックスする時間を意図的に設けることにしました。それこそスケジュール帳に書き込むくらいの勢いで、ちゃんと休息を”予定する”。ダーヨさんに言われて気づきましたが、私は休息を取ることを舐めていたんだと思います」

確かにチョンサの中でも休息や休憩は、サボることと同義の意味な気がして、なんだか積極的にやってはいけないものだと思っていた。

しかし実際、そんな張り詰めた生活を送っていても、疲れるだけだ。もっと休息を積極的に取らないといけない。

二人は話し終わり、チョンサが事務所のドアを開けると、相談者の男性は深々とお辞儀をし、街の中へと消えていった。

今日の日記:意識的に手を抜く

○月○日 くもりのち雨

最近ぼくは元気がなかったのだが、働きすぎだったのかもしれない。

仕事をして家のこともやって、自分の趣味も隙間時間に行う。そんな生活をずっと何年も続けている。

なんだか油を差していないブリキのおもちゃのようだ。パツパツに詰めるのではなく、油を差して休憩をさせることが重要な気がする。

そういえばダーヨさんもムネマさんも結構だべっている時間が多いように見える。

ダーヨさんは仕事の時間は本当に短いし、ムネマさんもほとんど寝ている。

ぼくももっと、人間と猫、どちらにもいい手本がいるので、参考にして、もっと休憩を取ろうと思う。

以上

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