4.7章 力の入れどころ

国王の元お墨付き大臣のダーヨ。今は占い師として活動している。

ダーヨに憧れ、師事する優しい中年男性チョンサ。

チョンサはひょんなことから猫の言葉がわかるようになり、三毛猫のムネマとは友人関係にある。

今日もダーヨの元に占いと言いつつ、人生相談をしにきた人がいるようだ。

他人を優先してしまう症候群

今日の相談者さんは、人のことを優先しすぎて、自分のことを大事にできず、困っているという相談であった。

今日のこちら側の布陣は、ダーヨ、チョンサ、ムネマと勢揃いであった。ダーヨとチョンサ、それに相談者はソファに腰掛け、ムネマは窓辺で寝そべるというスタイルであった。

相談者が堰を切ったように話し始めた内容によると、昔から人に逆らったり、反対することが苦手なこと無かれ主義だという。平和が一番といった考え方の持ち主で、自分が我慢して事が解決するのであれば、すぐ口をつぐんでしまう。

だがその我慢は着実にストレスになっていて、早く自分一人になりたい、他人とは距離を置きたいと人を遠ざける傾向があった。

それに一人になると今までの我慢を解消するかのように、自分の好きなことをしてしまい、暴飲暴食に走る。それにより健康被害を被るようになっており、どうにかこの悪循環を断ち切りたいということであった。

「ったく、この人間もいろいろと気にしすぎなんだよ。やりたいようにやったらいいじゃねえか、女々しいなあ」

人間からしたら、ニャーと言っているようにしか聞こえないが、猫語がわかるチョンサには、ムネマがそのように言っているのがはっきりと聞こえた。

そんな簡単に性格が変えられたら苦労しないんですよ。 そうチョンサは心の中で言った。

ひとしきり相談者からの告白が終わると、ダーヨが口元に手をやりながら話した。

「まあ、あなたのお気持ちはわかりますよ。でもどうしたものですかね。こういう時は水晶に占ってもらいますか」

一応、ダーヨは占い師ということで商売をしているので、水晶のようなザ・占い師というアイテムも持ち合わせている。しかし占いは形だけで、ダーヨの中では答えは決まっているのだ。一応形だけはやっておくということで、時々こうして水晶で占ってみたりしている。

紫色の水晶を持ってきてテーブルの上に乗せると、ダーヨは目を閉じ、ごにょごにょと言い始めた。しばらくして目を開くと、占いの結果を相談者に伝えた。

性格は変えられない

「そうですね、ズバリ出ました」

「私はどうすればこの苦しみから解放されるのでしょうか」

相談者がそう聞くと、ダーヨは予想外の回答をした。

「はい、ズバリ、これは性格の問題なので、どうしようもありません」

「そ、そんな・・・」

元も子もない回答で、相談者の顔に絶望の色が浮かんだ。奥の窓辺ではムネマがにやにやしているように見えた。

「ったく、甘えたことを言っていないで、嫌なものは嫌。そうじゃなかったら我慢するんだな。それに我慢できるくらいのことってことさ。本当に嫌なことだったらちゃんと断っているって」

ムネマのコメントは辛辣であった。それに対し、ダーヨからの答えは幾分優しいものであった。

「占いではどうしようもないということでしたが、少し私から補足すると、多分あなたは前に嫌なことを断って嫌な思いをした。そんな嫌な思いをするくらいであったら、最初の嫌なことは受け取ってしまった方がいいという決断をしたのだと思います。
 確かにそれは良い判断なのですが、ずっと反抗しないままだと心が沈んでいってしまいます。何か紙に自分の気持ちを書くなどして、自分の気持ちを可視化したほうが良いでしょうね」

相談者は真剣な眼差しでダーヨを見ている。

「それはすでに行ったのですが、ペンを取るのが億劫でなかなか続けられないのです。もしかすると自分の中で、どうせ書いたところでこの問題は解決しないと思ってしまっているのかもしれません」

「じゃあ独り言を言ってみるのはいかがでしょう」

咄嗟にチョンサは自分の考えを言葉に出した。

「それもやってみました。しかしなんとなく気持ちが沈んでいる時に、独り言を言ったり、文字を書いたりするのは億劫なんです」

どうやらこの相談者はあらゆることをしたが、それでも改善せず困っている様子であった。

「解決しないことだよ」

ムネマはぼそっと言った。誰に言うのでもなく、遠い目をしてそう言った。

「そんなに性格が変えられねえって駄々をこねるんだったら、もう変えるのは諦めるんだな。どうせさっきも言ったみたいに、本当にまずい時は断るだろうよ。
 それよりもそんなにどうしようもねえと思っていることに時間をかけるより、もっと自分の好きなことをすればいいと思うけどな」

ムネマはそうぼやき、ぴょんと窓辺から出て行ってしまった。

動かない石より、動く石を

確かに性格を変えるのは難しい。であればそこに労力をかけるより、自分の好きなことに時間をかけた方が有意義ではないのだろうか。

チョンサはムネマの言葉を代弁するかのように、相談者に話した。

「性格を変えるのって難しいですよね。だったらそこに時間をかけるのではなくて、ご自分の好きなことに時間をかけるのはいかがでしょうか」

チョンサの言葉に、相談者のみならず、ダーヨも驚いた様子であった。

「私の好きなこと・・・あります。確かにあーだこーだと悩むより、その時間を自分の好きなことに使った方がいいかもしれません」

相談者はいくらか合点がいったような様子であった。

「チョンサさんの今のアドバイスはいいですね。先ほどの水晶の占いの結果のように、性格はなかなか変えられるものではないのですよ。でしたらそれをどうこうするより、ご自分の好きなことに時間を割いた方がいいのかもしれませんね。動かない石を頑張って押すより、動く石を動かした方が有意義かもしれません」

ダーヨからの言葉に相談者はコクリとうなづき、納得した様子で、ダーヨの事務所を後にしたのであった。

相談者を見送った後で、ダーヨはチョンサに尋ねた。

「チョンサさんが相談の内容に直接アドバイスをするのは、今日が初めてでしたね」

チョンサはどきりとした。相談者はダーヨに対して相談をしにきているのに、自分がしゃしゃり出て、偉そうにコメントをしてしまった。怒られるかと思った。しかしダーヨの反応は違っていた。

「あちらのアドバイス、芯をついていて良かったと思います。私はどうしても問題を解決しようとしがちですが、そうではなくてそこは置いておいて、違う自分のメリットが出せる方に注力する。よくそのポイントに着眼できたものです」

ダーヨはアドバイスが良かったと褒めてくれた。しかしチョンサは言えなかった。それは自分のものではなく、友達の猫の言葉であったと。

そんなことは言えないので、少し申し訳なさそうに、チョンサはうなづくのであった。

チョンサの日記「どこに力を入れるか」

○月○日 くもり

今日は初めてダーヨさんと相談者さんとの会話に、口を挟んでしまった。

猫のムネマさんが言っていた言葉が、いいアドバイスだと思って、それをみんなにシェアしないのはもったいないと思ったのだ。結果、ムネマさんの言葉は相談者さんにも響いたみたいだし、良かった。

性格はなかなか変えづらいものだと思う。もちろん矯正し続ければ直るのかもしれないけど、相当骨が折れるのは確実だろう。それよりも自分の好きなことに注力したほうが、幸せな人生を送れるのかもしれない。

以上

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