3.8章 夢のかなえ方

ここはタール村にある、唯一の図書館。建物には良い光が入り、周りは自然に囲まれている。

その図書館には、優しそうな館長と、肝っ玉母ちゃんのような司書のゴシカがいつもいる。近くの学校からは物静かなスイスイという女の子がよく来ていた。

今日はそんな図書館にある、一冊の本を読んでみよう。

絵本「夢のかなえ方」

あるところに、男がいた。

彼には仕事があり、家族がいた。

昼は懸命に働き、夜帰ってから家のことをやり、休日が取れた日には家族と幸せに暮らしていた。

しかし彼には野望があった。外の国に行き、色々な場所を巡り、冒険をしたかったのだ。

ただ、その野望を達成するためには、今の仕事を辞め、家族を置いていく必要がある。

一家の大黒柱として、到底そんなことはできなかった。彼は幸せで平和な毎日を暮らしつつも、何か満たされないものを感じていた。

だが、彼はあきらめなかった。冒険に出るための準備を怠らず、その機会をずっと待っていた。何年も何十年も、彼の心には外の国に行って、冒険するイメージが、ありありと脳に焼きついていた。

そして仕事の関係で、しばらく外の国に行けるようになった。彼は準備を怠っていなかったため、すぐにその仕事に取り掛かることができ、夢を達成することができた。

その後、彼に人は尋ねた。どうやって夢を達成したのですか、と。

彼は答えた。

「簡単だけど、一番難しいことをやったまでです。
 それはあきらめないことです」

おわり

あきらめたくなる気持ち

司書のゴシカは、本を整理している中、この絵本、「夢のかなえ方」に目が止まり、パラパラと読んでしまった。

実はゴシカには夢があった。それは自分で絵本を書いて、世に出すことであった。

ゴシカは文章を書くのは得意であった。子ども向けに平易な文章を書くこともできた。それは自分が子どもを産み、育ててきたからであろう。

しかし、からっきし絵が上手ではなかった。どうしてもちんちくりんな絵になってしまう。それはそれで味があるのだが、ゴシカ自身としては気に食わず、こっそりと絵の勉強をしていた。

絵本を書きたいと思ったのは三十歳頃のことで、もうそろそろゴシカは四十歳になろうとしていた。

そろそろ五年ほど絵を勉強しているが、さすがに最初の頃から比べたら自分の腕は上達したと思うが、この図書館で働いていると、すばらしい絵を描く作家が山ほどいる。そんな中、仕事をしながら片手間で絵を勉強している自分が敵うはずないと、自信をなくしてしまうのであった。

それでも絵本を書きたいという夢はあきらめず、仕事が終わり、育児家事の合間を縫って、絵の勉強に励むのであった。

そんな中、夢のかなえ方という本があって、つい読んでしまった。つまりそれは自分が夢をかなえたいと思っていることに他ならない。

この本では、あきらめずずっと準備をし、待っていればいつかチャンスが巡ってくるという主旨で書かれていた。

しかしそれにはどうも自分自身、納得がいかなかった。本当に自分はこのままで夢をかなえることができるのか。かなえるためには別の方法を取った方がいいんではないのか。そんな悶々とした気持ちで、しばらく仕事をしていた。

その時、館長がゴシカに声をかけた。

「ゴシカさん、どうかしました。いつもの元気がないようですが」

館長とはここで働いて三年ほどになる。館長の優しい人柄が好きで、かなり打ち解けた仲であった。

「館長、、、なんかこの本をチラッと読んだら、なんだか元気がなくなってしまって」

ゴシカはそう言って、さっき読んでいた「夢のかなえ方」の絵本を館長に渡した。

「ほう、すばらしいタイトルですね、夢のかなえ方ですか」

そう言って、ざっと館長は絵本に目を通した。それからゴシカに言った。

「確かにあきらめなければ夢はかなう。これは結構巷では言われることですね。
 ただ、うがった大人が見ると、本当にそれで夢がかなったら苦労しないよ、と思いそうですね」

「そうなのよ、館長。私もそう思っていて、夢が努力でかなうんだったら苦労しないわ、と思ってしまうわ」

ゴシカは正直に館長に話した。館長は言った。

「私の夢は図書館で働くことだったので、一応夢はかなえたんですよね。でもよくよく考えてみると、私の夢は実は違うことだったんだなって気づきました」

「それってどういうこと?」

ゴシカは身を乗り出して館長に尋ねた。館長はゆっくりとした口調で話し始めた。

「私は最初、違う仕事をしていて、ちょっとそこで病んでしまって、図書館で働き始めたんです。
 その理由は本が好きだったから。そしてなんやかんや仕事をしていたら、いつの間にか館長になってしました。
 でも館長になると、こんなことゴシカさんの前でいう話じゃないかもしれませんが、管理業務だったり、事務手続きだったり、責任を感じたりで、嫌な面も見えてきたんですよね。だから、正直、もう館長の仕事を辞めようかと思ったこともあります」

あまり聞いたことのない話だったので、ゴシカは驚いた。いつも柔和な感じで接してくれる館長にも、さまざまな悩みを抱えていたのだ。

「そうこうしているうちに、考えたんですよね、どうして自分は本が好きなんだろうと。色々と考えてみたのすが、見識が広がるとか、自分の世界に閉じこもることができるとか、そう言った理由が挙がってきました。また、図書館のこの静寂の雰囲気が好きだとも。
 しかしゴシカさんもご存知のように、図書館で働くというのは、一種の接客業の側面もありますから、どうしてもコミュニケーションは避けられません。たまには来館される方とトラブルになることもありますしね。
 どうしても、好きな本に囲まれて仕事ができているという事実を忘れ、嫌なことばかり見えてしまうのです」

確かにそうだ、とゴシカは思った。不思議なもので、良いこと、ありがたいことはすぐに忘れてしまって、嫌なことばかり見えてくる。

ゴシカには子どもがいたが、彼らが健康で楽しそうにしているので本当は満足なはずなのに、もっと勉強させなければいけないのでは、とか、もっとしつけを厳しくした方がいいのではないかと気になってしまう。その時、彼らの存在のありがたさは消えてしまっていた。

膨れ上がる欲

「ニンゲンって、本当に欲張りな生き物なんだね」

振り向くと、学校帰りのスイスイがそばにいた。どうやら館長とゴシカの話をずっと聞いていたらしい。

「あれもやりたい、これもやりたいって思っちゃうのかな。お腹みたいに、お腹パンパンになったら、もう食べれない〜てなればいいのにね」

そう言ったスイスイに、館長は話した。

「確かにそうですね、スイスイさんの言うとおり、欲もお腹みたいに、上限が決まっているといいのですが。
 悲しいことに、それはないようです。それがないのが欲の一番厄介なところです」

「でも欲があるから、人間は行動できるのよね」

ゴシカはポツリと言った。そう、自分に絵本作家になりたいという夢がなければ、図書館で働き、子どもたちを育てるだけで人生を終えるのだろう。

しかしゴシカには夢があった。それを持つことにより、辛い人生になるかもしれないが、得られるものはかけがえのないものになるはずだ。

「館長、今週のおすすめコーナー、この本にしていい?」

そう聞かれた館長は、少し驚いた様子であったが、優しく答えた。

「もちろんです」

夢があるから動ける

ゴシカは今週のおすすめコーナーに、「夢のかなえ方」を置いた。

そこに付箋をつけておいた。そこにはこう書かれていた。

「夢、あきらめそうになりますよね。私にも夢がありますが、なかなかかなっていません。でも続けていこうと思っています。めげそうになりますけど、この夢があるから、頑張ろうって思っている気がします。一緒にがんばりましょう○」  司書ゴシカ

以上

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