3.10章(最終章) かみさまからの贈り物

ここはタール村にある、唯一の図書館。建物には良い光が入り、周りは自然に囲まれている。

その図書館には、優しそうな館長と、肝っ玉母ちゃんのような司書のゴシカがいつもいる。近くの学校からは物静かなスイスイという女の子がよく来ていた。

今日はそんな図書館にある、一冊の本を読んでみよう。

絵本「かみさまからの贈り物」

あるとき神は二人の男を創造した。

その二人は何もかも一緒であった。顔も背丈も能力も同じであった。

一人目の男はムアといい、もう一人はブイと言った。

ムアは大人になっても特に何をすることなく、言われただけの仕事をして、退屈をしながら生きていた。

特に家庭を持たず、仕事をする以外の日の大半は家で酒を飲んでいた。

そして徐々に年老いていった。死ぬ時には残念ながら誰にも看取られることなく、一人でこの世を去った。

ブイはとりあえず几帳面な性格で、何をするにも時間を測っていた。

この作業には何分、何時間と自分の中で統計を取り、一日の二十四時間を有意義に使った。

彼には建築家になりたいという夢があったので、勉強に精を出した。建築の仕事に就いた後も、自分の生活をうまくコントロールし、次々と夢を叶えていった。

それを見ていた、二人を創造した神は不思議に思った。二人とも能力は同じくらいにしておいた。

しかし片一方は飲んだくれ、もう片方は成功し周りにもいい影響を与えている。この違いはなんなのだろうか。

そう考えていると、南の神がやってきた。この世界では北の神と南の神の二人で統治しており、不思議に思っていた北の神のところに、南の神がちょうどやってきたところであった。

南の神が言った。

「この二人ではあるものの使い方に、明確な違いがあるようじゃ」

「その違いとは一体なんだ」

北の神は聞いた。南の神はゆっくりと口を開いた。

「それは私たち神もそうじゃし、もちろん人間もそうじゃ。それは皆に平等に配られる」

北の神は首を捻って聞いた。

「それはなんじゃ、南の神よ。私はあの二人の男に同じ体を与えた。それ以外に皆にも共通する、何か平等なものがあるのか」

南の神は言った。

「それは目には見えない。しかし誰にも平等に分け与えられている。そしてそれは食糧や金のように貯めることはできない」

「だからそれはなんじゃというんだ」

北の神は痺れを切らして言った。しかしとうとう南の神は答えは言わず、去っていった。

北の神は答えがわからず悶々とした日を過ごした。そして何年、何百年と過ぎてしまった。もちろんムアとブイはもうこの世を去っていた。

しかしムアとブイには子孫がいて、その子孫たちがまだ生き残っていた。

長い年月が経っていた。そしてその瞬間、北の神は悟った。南の神が言っていたものがなんだったのかと。

平等とはなにか

その日いつも通り朝の早い時刻に、館長は図書館につき、門を開いた。

まだ司書のゴシカは来ていない。朝この静かな時間を独り占めできるのは、館長の毎日の密かな楽しみであった。

そして本の整理を淡々と行う。その時、この本が返却ボックスに置かれていた。

そのタイトルは「かみさまからの贈り物」。一人の神が能力が同じ人間を創造するが片っ方の人間は堕落するのに対し、もう一人はきっちりとした生活を送り自分の夢も叶えていく。もう一人の神から、神も含め人間たちにもあるものが平等に分け与えられているという。最初の神はその答えがわからないのだが、時間の経過とともにその答えがわかる。

答えは「時間」である。時間は二十四時間で、だれしもそれは同じである。お金持ちも貧乏人も同じ二十四時間を保有している。

常々、館長はこの限られた時間をどう使うかで、人の人生が大きく変わっていくことに気づいていた。

同じ二十四時間でもだらだらと過ごす日々を送っている人と、何か目標を持ってコツコツ継続している人を見比べると、一年後には大きな差がついていることがある。それほどこの時間の使い方というのは大事なのである。

そして今、館長は自分だけの時間を優雅に使っている。どう時間を使うかはその人の自由だ。しかしその使い方で人生が大きく変わってくる。

自分の時間を大事に使おう。そして何に投資するかをちゃんと考えよう。

そう思って、館長は、かみさまからの贈り物の本を、今週のおすすめコーナーにおいた。

押し付けとおせっかい

この世界にはさまざまな本があり、自分の世界を広げてくれるものばかりだ。安易なものばかりに食い付かず、自分の可能性を高めてくれる良書と出会おう。自分の押し付けからもしれないが、長いこと館長は今週のおすすめコーナーに、推薦する本をおいてきた。

これからも館長のおすすめは続くであろう。強く押し付けることはしない。しかし多くの本を知っている館長にとって、それを知らない人への何か気付き、発見につながるかもしれない。

おせっかいかもしれない。嫌がられるかもしれない。しかし他者へのアプローチなしに成長はない。その距離感を考えつつ、館長は自分の考えを発信していくつもりであった。

さあ、そろそろゴシカが来てくれる時間だ。もしかすると学校の友達を連れてスイスイもやってくるかもしれない。

館長は今の自分の境遇に感謝しつつ、自分にとって正しいと思うことを、押し付けにならないよう気をつけながら、今週のおすすめコーナーという形を持って、世に発信していくのであった。

第三部 完

第四部へ続く。

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