4.3章 結果が出ない!

国王の元お墨付き大臣のダーヨ。今は占い師として活動している。

ダーヨに憧れ、師事する優しい中年男性チョンサ。

チョンサはひょんなことから猫の言葉がわかるようになり、三毛猫のムネマとは友人関係にある。

今日もダーヨの元に占いと言いつつ、人生相談をしにきた人がいるようだ。

なぜ成果が出ない

今回から、ダーヨと相談者との面談に、チョンサも同席して良いことになった。

もしかすると、前回三毛猫のムネマと一緒に立ち聞きしていたのがバレたのかもしれない。

しかしダーヨはなにも言わず、「同席していいですよ。一緒に聞いた方が、あなたの勉強になるかもしれない」と同席を許してくれたのだ。

そして、今回の相談者は、色々と努力はしているけれども、なかなか成果が出ずに困っているという話であった。

実はその人は二回目の相談で、前回の、成果を出す4ステップをダーヨから教えてもらっており、実践しているのだが、成果が出ないということで、若干クレームっぽい感じで、今回訪問してきたのであった。

その人はかなり若い方で、勢いのある男性であった。席に着くなりダーヨに食ってかかった。

「どういうことですか、ダーヨさん。あなたのアドバイス通り成果を出す4ステップを何年も試みましたが、まるで効果が出ません。ぼくが費やした時間を返してください!」

どうしたものかと、横にいるチョンサははらはらしながらダーヨを見ると、ダーヨは落ち着き払った様子で、言葉を返した。

「あなたはどれくらい努力したのでしょうか」

「この4ステップをどれだけ実践したかということですか?もう五年やりましたよ。五年ですよ、五年。それだけやって成果が出ないなんて、きっとこの方法が間違っているんだ」

ダーヨは口元に手をやりながら、その若者に答えた。

「私が教えた4ステップを一度復唱してもらえますか」

若者はイライラしながら答えた。

「まずは成功のイメージをしっかりと頭の中で思い浮かべる。イメージができたらそれを勇気を持って行動する。そして振り返る。最後にそれができた自分を褒める。合っているでしょう?」

確かにその若者が言っていることは、ダーヨが教えた内容と一致していた。

つい最近この4ステップの話を聞いてから、チョンサもこれを実践していた。しかし五年もやって効果なしとなれば、この4ステップを続けるかどうかチョンサとしても疑いの眼差しを、ダーヨに向けざるを得なかった。

「ちなみに、その、あなたの努力していることとは、一体なんでしたっけ」

ダーヨは落ち着きを保ちつつ、若者に尋ねた。

「ぼくが頑張っていること。それはある工芸品を作ることです。そしてそれを売って、生活を成り立たせることです。しかし良い工芸品をいくら作っても、誰も買ってくれない。きっとこの良さがわからない馬鹿者ばかりなんだ」

若者は怒りをぶちまけていた。しかしチョンサはこの若者を嫌いにはなれなかった。

努力しても報われない。誰からも褒められない。そんな生活が五年も続いたら、自分だったらとても耐えられないだろう。

猫視点の意見

と、その時、面談部屋の空いている窓から、三毛猫のムネマがそろりと部屋に入ってきた。

「あらあら、この猫ちゃんですね。この近所の野良猫ですね」

ダーヨは笑みを浮かべて猫の侵入を許した。そしてムネマはチョンサのそばに座った。

「よう、チョンサ。なんだよ、この部屋の空気は。なんかこの若い兄ちゃん。えらい威勢がいいな」

ムネマはチョンサに話しかけたが、猫語が理解できるのはチョンサだけである。周りの人間からは猫がにゃんにゃんと言っている風にしか聞こえない。

チョンサもムネマに話しかけたいのだが、猫に話していたらダーヨと相談者さんがぎょっとするだろう。チョンサは目でムネマに訴えかけた。今は喋れないですよ、と。

それを分かったのかどうかは分からないが、チョンサから返答がなくても特に気にせず、チョンサの横であくびをしたのであった。

「ぼくの努力はきっと報われないんだ。ぼくはこの工芸品を作るという好きなことで、一生食っていけず、嫌な他のことをして生きていかなければいけないんだ」

相談者の若者は今にも泣き出しそうであった。

そんな若者を見て、ムネマはぼそっと言った。

「なんだよ、馬鹿馬鹿しい。重く捉えすぎなんだよ。あと努力したって言っているけど、本当にこの兄ちゃんは努力したって言えるのかね」

どういうことですか?という不思議な顔をチョンサはした。ムネマは話を続けた。

「おれは昔負った傷が原因で、左の後ろ足がうまく動かねえ。普段の生活は送れるが、いざ獲物を狙おうとした時は、昔に比べて速い動きができなくなっちまった。
 それでもおれは野良猫だから、獲物を取って生きていかなきゃならねえ。でも体はうまく動かねえ。
 そんなとき、おれは考えた。どうすれば体は遅くても獲物を捉えられるかってな。死に物狂いのその果てに、おれはある方法を編み出して、獲物を取れるようになった。その死に物狂いさがこの兄ちゃんからは感じられねえな」

ムネマは少し冷たい眼差しで、相談者を見てそう言った。

生き死にがかかると、生き物の集中度合いは飛躍的に向上する。この相談者さんは夢に向かって動いているが、今生きている様子を見ると、他に仕事もあって収入もあるのだろう。

それに比べてムネマは野良猫。収入なんていう概念はない。自分で餌を調達しなければならないのだ。人間と野良猫、二つの生き物には生死に関するギャップが大きくあるらしいと、チョンサは思った。

努力の方向

しばらく黙っていたダーヨは再び口を開いた。

「厳しいことを言うようですが、おそらく努力が足りないのだと思います」

なんとダーヨもムネマと同じことを言った。しかもかなりストレートに。当然相談者は反撃をしてきた。

「なんですって。ぼくの努力が足りない?なんて言うことを言うんですか。ぼくは努力していますよ、例えば・・・」

そう言って毎日のルーティーンを相談者の若者は話し、いかに自分が時間を有効活用しながら自分の夢の方に時間を注いでいるかを熱弁した。

それに対し、ダーヨは冷静に言った。

「すみません、言い方を間違えましたね。努力が足りないのではなく、努力の仕方が誤っているんだと思います。
 努力というのは継続することです。あなたは確かに継続することはよくできていて、すばらしいと

思います。
 こうイメージしてみてください。あなたは車に乗っている。あなたの役目は車にガソリンを入れることと、ハンドルを握り、アクセルとブレーキをうまく使い分けながら、ゴールを目指すことです。
 あなたは長い時間、ガソリンを絶やすことなく補給している。もちろんガソリンはタダでは手に入りません。ガソリンを得るために他の仕事をし、ガソリンを買って補給をしている。あなたはそれを五年も続けている。その継続力、努力は賞賛に値します。
 そしてあなたはハンドルを握り、自分が作った工芸品をみんなに買ってもらって生活を維持するという夢、目標に向かって車を走らせている。しかし五年も同じことをするがそこに到達していない。いや、どれだけ進捗をしているかも分からない。そんな感じでしょう?」

尋ねるダーヨに、相談者は口をあんぐりと開けて、うなづいた。

「そうです、そうですとも。まさにそんな感じです。霧の中を歩いているようで、ゴールが見えず、もう泣きそうな状態なんです」

若者は切実にダーヨに訴えかけた。ダーヨは話を続けた。

「もしあなたがこの状態、つまり霧に包まれたようで、自分のゴールに向かって走れているか不安なとき。その時はゴールを”分ける”必要があります」

「ゴールを分ける?」

そう、つい言ってしまったのは、チョンサの方であった。ゴールを分けるとは一体どういうことなんだろう。

「なるほどな」

そう言ったのは猫のムネマである。えっ!と驚いてチョンサはムネマを見ると、ニヤリと笑って答えた。

「この兄ちゃんは欲張りすぎなのさ。おれの例で言えば、足が悪くても獲物を取りたい。それがゴールだとするだろ?でもなかなか獲物が取れない。これが現状だ。
 普通、獲物を取りたい、でも頑張っても取れない。どうしよう。となって絶望して、本当に獲物が取れないと、弱肉強食じゃねえけど、死んでいく。
 まず獲物を取りてえんだったら、獲物にどういう習性があるのか。そもそも自分が狙う獲物はなんなのか。スズメなのかカエルなのか。まずターゲットを絞る必要があるんだよ。
 スズメだったら狭いところに誘い込んだほうがいいとか、カエルだったら夜狙ったほうがいいとか、まあ、野良の知識として色々あるんだよな。
 だからこの兄ちゃんも頑張るやる気があるんだから、まずはなんかを誰かに売りてえと思ったら、誰に売るかっていうことをもうちっと考えたほうがいい気がすんな。・・・まあ売るっていうことがよくわからねえけど」

ムネマの説明が終わるくらいに、ダーヨも話を始めた。

「ゴールを分けるとは、まず、もう少し細分化したほうがいいということです。
 あなたの話を聞いていると、誰でもいいから買ってくれ、と聞こえます。
 そうではなくて、どんな人に買って欲しいのか。相手の立場になって考えてください。あなたは工芸品を買いますか?その人はなぜ買うのか。そこをもっと考えるべきだと思います。
 自分のはいい商品だ。だからみんな買っていくはずだ、は、かなり短絡的と言わざるをえません」

ピシャリとダーヨは言い切った。

若者はぐうの音も出ない様子であった。

その日の面談は終わり、相談者は帰って行った。

その日のチョンサの日記

○月○日 曇り

今日の相談者さんは、努力しても成果が出ないというお悩みを持つ方だった。

自分が正しいと思っていることを続けるのは実際すごいと思う。でも客観的に見ると実はそれだと全然足りていないということももちろんあると思う。

それを受け入れるのがすごい難しいだろうな。だって自分がやってきたことを何か否定するような気がするから。

それでも成功をするためにはそれを乗り越えないといけないのかな。成功するってなんて大変なことなんだろう。

成功するための、隠し味

そこまで日記を書いたところで、窓からにゃおんという声が聞こえた。なんとそこにいるのはムネマであった。

「よう、こんばんは。なんか寝れなくてよ。つい来ちまった。お邪魔だったかね」

「いえ、大丈夫ですよ、ムネマさん。お昼はお話できずにすみませんでした。さすがに猫と、人間の前で話すのはね」

そう言って、はははとチョンサは笑った。そして少しため息をついた。

「今日の話、なにかぼくは釈然としないんです。あの相談者さんの努力を否定してしまった気がして。
 あの人は全然悪くない。逆にとても頑張っている人だ。報われてほしいものです」

うーんと言ってからムネマは言った。

「まああの兄ちゃんはあんまり気負いせず、もっと気楽にやったほうがいいと思うけどな。自分は才能がない、ダメなやつだ。だから時間を使っても全然成果が出ないんだとかは思わないほうがいいな」

「でも実際自分を責めてしまう人は多い気がしますけどね」

チョンサは少し落胆した様子で、ムネマに話した。それだけ努力しているのに成果が出ないことでの、モチベーションの低下はひどいものだと思っていた。

「でもよ、チョンサ。お前は猫と喋れるようになるって、思ってたかい?」

ムネマからの意外な質問に、少し面くらいながらも、チョンサは答えた。

「まさか、まさに青天の霹靂。そんなことが起きるとは思ってもみませんでしたよ」

青天の霹靂はよく分からなかったようだが、ムネマは答えた。

「そうだよな、おれもだ。人間と喋れるようになるなんて思ってもみなかった。だから世の中何が起きるか分からねえ。だから何かしたいんだったら、諦めないで続けるってのもそれはそれで正しいと思うんだ」

確かにそうなのかもしれない。あの若い相談者さんが帰る時、ダーヨは優しく言っていた。

「あなたの努力は決して無駄にはなっていません。今は成果が出なくて辛いでしょう。でも決して諦めないことです。というより、あなたが本当にしたいことであれば、どれだけ辛くてもあなたは決して諦めないでしょう。逆に諦めてしまう夢だったら、それまでということです。
 少なくとも私はあなたを応援しますよ。また悩んだらここに来てください」

そう言ったダーヨに対し、相談者さんは「ありがとうございます」と深々と頭を下げていた。

多分また悩みを抱えたらあの若者はここに来るだろう。ダーヨを求めて。そういった意味だと何か成功のヒントは、誰かから「ありがとう」と言われることのような気がして、ならなかった。

以上

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